食道がんの治療
食道がんの治療後は定期的に経過観察のため検査を受けていただく必要があります。その目的は、(1)食道がんの再発(局所再発、リンパ節転移や遠隔臓器への転移)【図42】の早期発見、(2)他臓器に新たにできるがんの早期発見です。
食道がんにかかられた患者さんは約23%程度の頻度で他の臓器にもがんができることがわかっており、咽頭を中心とする頭頸部がん、胃がん、大腸がんの順で多いと報告されています。したがって経過観察では内視鏡検査を受けて、食道だけでなくのどや胃、大腸も十分に観察しなければなりません。
経過観察方法、時期については各施設で少しずつ異なり、日本食道学会で推奨する決まった手順などは無いのが現状ですが、がんのステージ、受けられた治療方法によって変わってきます。
内視鏡的食道粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)や内視鏡的食道粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection:ESD)【図20】により食道がんの治療を受けられた患者さんは、食道がんの壁深達度により経過観察方法が変わってきます。
すべてのがんは粘膜の最も内側の「上皮」から発生します。粘膜固有層までにとどまるがんはリンパ節転移の可能性はほぼ0%であることが分かっています【図19】。
病理組織検査で粘膜固有層までのがんであったと診断されれば治療後にCT検査などでリンパ節再発を検索する必要は基本的にありません(肺がんなどのスクリーニング目的で撮影している施設もあります)。
一方で、食道に新規にがんができないか【図43】、また頭頸部がん、胃がん、大腸がんの検索のため内視鏡検査は必要です。
食道内の別部位の再発は、禁酒をすることで抑制できます。経過観察の期間は、最初の1、2年は3ヶ月から6ヶ月毎、その後期間を延ばしていくのが一般的です。また、粘膜固有層よりも深く、粘膜筋板に浸潤していた場合約10%、粘膜筋板からわずかに(200μmまで)粘膜下層に浸潤していた場合は約20%程度のリンパ節転移の可能性があります。またさらに粘膜下層にしっかりと(200μm以上)がんが浸潤していた場合は約半数の患者さんにリンパ節転移があります【図42】。リンパ節転移の可能性がある場合は上記の内視鏡検査に加え定期的にCT検査やPET検査などでリンパ節再発や他臓器転移を検索する必要があります。
内視鏡治療後に顕微鏡で細かく病気を調べた結果、転移のリスクがあると分かった場合には手術や化学放射線療法を勧められます。追加治療の有無にかかわらず、リンパ節再発や他臓器転移は2~3年後もしくはそれ以上経過しても発見される場合もあり定期的に少なくとも5年間は経過観察する必要があります。
表在がんでもリンパ節転移の可能性があると判断された患者さんや、進行がんの患者さんは手術または放射線照射を含む根治的な治療を受けます。
手術を受けた患者さんは再発の早期発見のため定期的にCT検査を中心とした検査を行います。このCT検査でリンパ節再発【図42】や、肝転移、肺転移などの臓器転移の検索を行います。はっきりとしない場合には、PET検査【図12】などを追加する場合もあります。他にも頸部、腹部超音波や骨シンチグラフィーなどを行う場合もあります。
食道がんの再発は80%以上が手術後2年以内に起こることが分かっています。そのため最初の1、2年は3~6ヶ月毎など短期間でCT検査を繰り返し、その後期間を延ばしていくのが一般的です。
また、他臓器に新たにがんができる可能性もあります。前に述べましたが、食道がんに合併する他臓器がんで最も多いものは頭頸部がんと胃がんです。頭頸部がん、胃がんが進行した状態で見つかると食道がんの手術後では手術することができない場合もあります。そのため年に1回は内視鏡検査を行い再発があったとしても内視鏡治療で対応できる早期の状態で発見できるようにします。
根治的化学放射線療法を受けた患者さんは、治療終了時(終了後3~4週後)に内視鏡検査による生検組織診断、CT検査もしくはPET検査で評価し、がんが消えている(complete response:CR)場合、定期的に経過観察をしていくことになります。検査での要点は局所再発の早期診断とリンパ節、他臓器転移の早期診断です。局所再発の検索には内視鏡検査を行うことになります。
内視鏡検査時に組織を採取し病理組織診断を併用し参考にします。リンパ節再発や他臓器転移の検索にはCT検査もしくはPET検査を受けていただく必要があります。これらの遺残や再発は大部分が1~2年以内に起こることが多く、そのため根治的化学放射線療法後の経過観察をされる患者さんの場合は内視鏡検査とCT検査を最初の1、2年は3ヶ月から6ヶ月毎に、それ以降徐々に期間を延ばしていくのが一般的です。
再発が確認された場合は再発部位や個数、再発時期により方針を検討しますが、リンパ節転移や他臓器転移がなく食道のみに遺残(がんが治りきらずに残ってしまう)または再発した場合は内視鏡治療で対応可能な場合があります。内視鏡切除が不可能の場合でも光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)【図23】で治療が可能なことがあります。
また放射線照射後の局所再発はがんが急速に大きくなる場合があるので、つかえ感などの症状を自覚した場合は早めに主治医にご相談ください。
再発後の食道がんの治療としては、再発の部位や、患者さんの状態により、抗がん剤単独治療、免疫治療、緩和治療などの治療法がありますが、これらの治療法を選択される場合は患者さん毎に状態が大きく違いますので主治医とご相談ください。
よりやさしい“食道がん”に関する情報や療養に関する情報および食道がんに関するQ&Aは、
国立がん研究センターがん情報サービス(下記リンク)を参照してください。