食道がんの治療
食道がんの治療法には内視鏡治療、手術治療、放射線治療、免疫療法を含む薬物療法(抗がん剤治療)の4つがあります。それぞれの治療法には特長があり、単独または組み合わせた治療を行います。
治療方針は主としてがんの進み具合(病期)と体の状態によって決まります。詳細は日本食道学会による「食道癌診療ガイドライン(2022年版)」にまとめられています。患者さんに放射線治療が適しているかどうかは、がんの病期と体の状態などから、主として外科医や内科医と放射線腫瘍医とが連携して検討します。
放射線治療が予定されると、放射線腫瘍医の診察を受け、病期や全身状態をもとに、治療の目的、予想される効果と副作用等を考慮して放射線治療方法が決定されます。
今日、大部分の施設ではCT検査を用いた三次元治療計画が行われ、腫瘍やリスク臓器の線量を評価した高精度治療が行われています。固定具を作成したり、皮膚に目印となる印を貼ったり書いたりして、治療を受けるときと同じ姿勢でCT検査を行います。CT画像を治療計画装置に転送し、コンピュータ上で放射線治療計画を行います。
がんの存在範囲、がんの進展が予想される範囲等の標的、放射線を照射したくない正常組織などを十分に検討し、どの方向から、どういう方法で、どの程度の線量を投与すべきかを検討し、最も適した放射線治療方法を決めます(三次元原体照射法)【図37左】。最近ではコンピュータに腫瘍に対し必要な放射線量や正常臓器の被曝線量制約、それらの優先順位を入力し、コンピュータに逆算させる強度変調放射線治療(IMRT)を使用する施設も増えてきています【図37右】。
根治的治療では、放射線治療単独よりも抗がん剤を同時併用する化学放射線療法の方がより有効であることがわかっています。年齢や合併症等のために抗がん剤併用が困難な場合は、放射線単独療法が推奨されています。
根治的治療の適応となるのは、病変が局所あるいは領域リンパ節にとどまる症例です。表在がんで内視鏡治療後にがんの遺残がある場合、あるいはリンパ節転移の可能性がある場合には(化学)放射線療法を追加することがあります。局所進行例では、全身状態が手術に適さないか、あるいは手術を希望しない方が対象となります。
また、日本では少ないですが、手術前に化学放射線療法を行う場合もあります。切除が不可能な症例では、全身状態が良好であれば化学放射線療法の適応となり、その後手術が検討される場合があります。全身状態が不良な症例では、放射線単独治療が検討されます。通過障害がある進行食道がんに対して緩和的放射線治療が検討される場合があります。放射線治療は、術後残存例あるいは新鮮例以外にも、遠隔転移のない再発例に対して行われる場合があります。
放射線治療を単独で行う場合には、治療効果が低下する可能性があるため、治療期間の無用な遷延は避けるべきであるとされています。根治的治療における総線量は、化学放射線療法では主として50~60Gyが用いられています。放射線治療単独の場合には、60~70Gyが処方される場合が多いです。
粒子線治療は、放射線治療の1つであり、一般的な放射線治療はX線を用いますが、粒子線治療では陽子線や炭素イオン線を用います。粒子線治療は今後期待される治療法の一つです。通常の放射線治療で利用されるX線と異なり、照射された粒子線は体内を一定距離進んだ後、急激に止まり、そこで一気に高いエネルギーを周囲に与える特徴をもっています(ブラッグピーク)。この粒子線の特徴を利用すると、腫瘍にはエネルギーを集中して投与しつつ、腫瘍の周りに存在する肺や心臓に対する被曝線量を減らせることから、正常組織へ副作用の低減が粒子線治療には期待されています。米国のMDアンダーソンがんセンターで行われたランダム化第II相比較試験にて、胸部食道がんに対し、陽子線治療は前述のIMRTよりも重篤な副作用を減らすことが示唆されています。ただし、陽子線はX線と生物学的効果はほぼ同等と言われており、前述の無作為試験でも生存率については差がありませんでした。
炭素イオン線による重粒子線治療では生物学的効果がX線や陽子線よりも高く、がん病巣の制御率向上も期待されています。しかし、これまでのところ食道がんにおいて比較した前向き試験がなく、結論は出ていません。
これら粒子線を用いた放射線治療は食道がんではまだ保険診療ではなく、臨床試験あるいは先進医療の枠組みの中で行われています。
・ステージ0期:粘膜内にとどまりリンパ節転移がない食道がんが対象になります。内視鏡治療により治療後に食道が狭くなる可能性がある全周の食道がんや腫瘍の長径が5cm以上、リンパ節転移の可能性がある食道がんなどの、内視鏡治療の適応を外れる症例に対しては、手術もしくは根治的化学放射線治療が選択されます。
・ステージI期:粘膜下層に浸潤する食道がんが対象になります。手術もしくは根治的化学放射線治療が選択されます。特に手術を希望しない患者さんや手術に耐えられない患者さんに対しては、根治的化学放射線療法が行われます。5年生存割合(5年後に生存している割合)は、根治的化学放射線療法でおよそ85-86%と報告されています。
・ステージII-III期:現在わが国におけるステージII・III期の胸部食道がんに対する標準治療は、ドセタキセル+シスプラチン+5-FUによる術前薬物療法+手術です。ステージI期と同様に、手術を希望しない患者さんに対する標準治療は、根治的化学放射線療法および、遺残再発症例に対する救済治療です。3年生存割合は、術前薬物療法+手術または根治的化学放射線療法および、遺残再発症例に対する救済治療でおよそ72-74%と報告されています。
・ステージIVa期:局所でほかの臓器(気管や大動脈など)に浸潤しているために、切除ができない食道がんが対象になります。根治の可能性がある治療の一つとして、全身状態が良い患者さんに対しては根治的化学放射線療法が選択肢に挙げられます。化学放射線療法を実施したのちに、浸潤しているほかの臓器から腫瘍が離れたところで手術を行うことも行っています。
■放射線治療
放射線の線量をグレイ(gray:Gy)という単位で表します。わが国では60Gyを用いた根治的化学放射線療法が主流ですが、50-50.4Gyを用いる施設も増えてきています。通常はこれを分割し、1回1.8-2.0Gyずつ照射します。
■化学療法
放射線治療にシスプラチンと5-FUという抗がん剤を同時に併用します。
シスプラチン(70mg/m2)を第1と第29日目に、5-FU(700mg/m2)を第1~4と第29~32日目に投与するあるいは、シスプラチン(75mg/m2)を第1と第29日目に、5-FU(1000mg/m2)を第1~4と第29~32日目に投与することが、わが国では一般的です。
ここでは主に放射線治療による副作用について概説します。副作用には治療中や治療後早期に出る急性期障害と治療後数ヶ月経過してから出現する晩期障害があります。
■急性期障害
・骨髄抑制:
血球を作る工場である骨髄が一時的に障害を受けるために、白血球・赤血球・血小板が減少することがあります。
・放射線肺臓炎:
放射線照射によって肺が障害されることにより起こる肺の炎症です。細菌などの感染によって起きる“いわゆる肺炎”とは異なる病態です。初期症状は動いたときの息苦しさや咳などですが、無症状の場合もあります。【図39】
多くは放射線の照射範囲のみに限局した軽症例ですが、炎症が広範囲に及んだときには重篤な状態となります。放射線治療中から治療が終了した数ヶ月後に発症します。
・放射線皮膚炎:
一般的な外照射では放射線が皮膚を通過するため、放射線の照射範囲に一致して皮膚に炎症が起きます。放射線治療の後半に赤くなる場合が多く、炎症が強くなるとかゆみや熱感、痛みを伴います。まれに重症化し、皮膚表面の上皮が広範囲に剥がれ、びらんになることがあります。
・放射線食道炎:
正常な食道が放射線の照射範囲に含まれると、粘膜に炎症が起き、赤くただれることがあります。多くの場合、放射線治療の後半に食事を飲み込んだときのつかえ感や痛みとして出現します。
・瘻孔形成:
気管や大動脈などの周りの臓器への浸潤を伴う食道がんの場合、がんの縮小により瘻孔という管状の穴ができ、食道と気管や大動脈がつながることがあります。食道と気管がつながることにより唾液が気管に流れ込み重篤な誤嚥性肺炎が、また食道と大動脈がつながることにより大量の吐血が起こり、重篤な状態となる場合があります。
■晩期障害
・放射線肺臓炎:
急性期障害の一つですが、晩期障害として治療が終了した数カ月後に出現することもあります。
・胸水・心嚢水貯留:
放射線治療による炎症の影響で、肺の周りの胸腔や心臓の周りの心嚢腔に液体が貯留することがあります。無症状であれば経過観察を行いますが、息苦しさや動悸などの症状を伴う場合には、針を刺して液体を排液することがあります。
・心臓障害:
心臓や心臓の栄養血管(冠動脈)が大きく被曝することで数か月~数年あるいは数十年後に重篤な心臓障害(心筋梗塞や心不全、不整脈、弁膜症など)を起こす可能性があります。
・食道狭窄:
放射線照射により、がんがあった食道の内腔が狭くなることがあります。これはがん細胞が遺残していなくても起こることであり、食事を摂ることが難しくなる場合もあります。
よりやさしい“食道がん”に関する情報や療養に関する情報および食道がんに関するQ&Aは、
国立がん研究センターがん情報サービス(下記リンク)を参照してください。