食道がんの治療

進行・再発食道がんに対する薬物療法

1)化学療法(抗がん剤治療)とは

がんが食道より離れた臓器、リンパ節に転移している場合には、より広い範囲に効果を期待できる治療法が必要となります。手術治療や、放射線治療は局所には有効ですが、遠隔転移がある場合には、効果は限定的なものとなります。

そのような場合は、広い範囲のがん細胞に対して効果を期待できる抗がん剤を使用します。がん細胞は、CT検査などの画像検査で見えている範囲だけではなく、すでに広範囲に広がっている可能性があります。

目に見えないがん細胞に対しても効果が期待できるのが、抗がん剤ということになります。

2)抗がん剤治療の実際

抗がん剤治療を行う場合には、まず患者さんの状態をチェックします。栄養状態や、全身状態は保たれているか、食道の詰まり具合はどうなのか、がんの転移により痛みなどを感じていないのかなどを確認し、抗がん剤を行う前に症状を改善する治療(緩和治療といいます)、例えば、栄養剤の点滴や痛み止め、肺炎などを合併している場合には抗生剤などを行うことがあります。

抗がん剤には副作用があるため、日中起きて動けるくらいの体調でないと、むしろ状態が悪化してしまうことがあるためです。体調が問題ないことが確認された後、抗がん剤の投与を行います。がんに伴う痛みや、食道のつかえがあるような場合には、抗がん剤に加えて放射線治療を症状がある部分へ行うことがあります。

また、全身状態が悪くて抗がん剤が投与できない場合でも、症状がある部分への放射線治療を行う場合もあります。緩和治療は、抗がん剤を行う・行わないに関わらず、常にがんの治療においては考慮されるものです。症状がある場合には、我慢せずに担当医に伝えることが重要です。

抗がん剤による治療の目的は、がんをコントロールすることです。基本的には抗がん剤を繰り返し、がんを抑え続けることを目指します。がんがあっても、その症状を抑えることで、日常生活を快適に送ることが目標です。抗がん剤には副作用もありますが、副作用を抑える薬などを使いながら上手に付き合っていくことが重要です。

3)抗がん剤の種類と使い方

食道がんの治療に用いられる抗がん剤は、殺細胞性の抗がん剤(フルオロウラシル系薬剤、プラチナ系薬剤、タキサン系薬剤)と免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ)が利用でき、がんの状態や、患者さんの状態、臓器機能により、より適切な薬剤の組み合わせが選択されます。

フルオロウラシル系薬剤(5-FU、TS-1)と、プラチナ系薬剤(シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン)の組み合わせによる治療が行われることが多いです。推奨される治療法としては、5-FUとシスプラチンの組み合わせで、多くの場合は入院して約5日間の点滴を行い、3~4週間毎に繰り返す方法が一般的です。抗がん剤の効果は個人差があります。治療のオプションとしては5-FUとネダプラチンを用いる方法や5-FUにオキサリプラチンを併用する方法(FOLFOX療法)なども用いられることがあります。

どの治療方法にするのかは患者さんの状態や病理のボリューム、スピードなどにより慎重に検討する必要があります。なお、薬が有効かどうかは難しく、すぐに効果はわかりません。そのため抗がん剤を開始後、2~3ヶ月毎にCT検査などでチェックします。がんが大きくなっていなければ、また自覚症状が悪化していなければ、抗がん剤の効果があったと判断して、治療を繰り返し行います。がんの増大や自覚症状が悪化した場合には、薬剤の変更を検討することになります。

4)抗がん剤治療の副作用

抗がん剤副作用は薬剤により異なりますが、一般的なものは吐き気、食欲不振、口内炎、下痢、脱毛、白血球減少、感染による発熱、末梢神経障害、倦怠感、味覚障害などです。抗がん剤により、頻度や出る時期などは異なります。さらに免疫チェックポイント阻害剤に関しては免疫細胞を介在して特有の免疫に関連した副作用が出現します。これらの治療はがん拠点病院を始めとした設備の整った施設で実施することを推奨します

また個人差があるため、必ず全員に同じような副作用が出るわけではありません。毎日こまめに状態を日記に記録するなどして、担当医や薬剤師さんと一緒に振り返り、有効な対処法を考えることが重要です。例えば、吐き気が出てきそうな時期には前もって吐き気止めを飲んだり、倦怠感がある時期には体を休めたりするなど、無理に今までの生活を続けるのではなく、自分の状況を知り、それにあった対応を行うことが重要です。

抗がん剤の一般的な副作用への対策については、国立がん研究センターがん情報サービス(以下URL)などを参考にしてください。

URL:https://ganjoho.jp/public/dia_tre/attention/chemotherapy/index.html

抗がん剤の選択肢が無くなってもがんの治療が終わることはありません。前述のように、症状をとる緩和治療を継続して行い、がんの進行による自覚症状をできるだけ軽減しながら、生活ができるようにします。痛みのコントロールや、栄養をとるための工夫など、緩和治療の専門の医師や看護師などへ相談しながら行うことも効果的です。生活上どのようなことに困っているのかを担当医や、看護師へ相談しながら治療を行ってください。

5)進行・再発食道がんに対する薬物療法~1次治療

肺や、肝臓など、食道から遠い場所に転移がある場合や、術後に再発した場合など、がんが全身に広がっている場合には、薬物療法を用います。点滴や口から投与された薬物は、血液の流れに入り、全身に広がることで効果を発揮します。今まで薬物療法がおこなわれていなかった場合には、フルオロウラシルとシスプラチンそして、免疫チェックポイント阻害剤(ペムブロリズマブあるいはニボルマブ)との3剤併用療法の効果が最も高いと言われています。また、がんの進行が比較的ゆるやかであったり、がんが比較的小さかったりした場合には、免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブとイピリムマブ)2剤の併用療法も高い効果を示す治療として推奨されています。腎機能や、全身状態がわるく、抗がん剤の副作用に耐えられないと判断される場合には、シスプラチンに代えて、オキサリプラチンなどの薬剤を用いたり、まず、栄養療法や、痛みのコントロールなどの緩和治療を行い、抗がん剤に耐えられるようにしてから、薬物療法を行います。

6)進行・再発食道がんに対する薬物療法~2次治療以降

1次治療を行ったのち、効果がなかった場合や、一度効果があっても、治療中に増悪した場合には、薬物の種類を変更します。2次化学療法では、1次化学療法で用いなかった薬物を用いて治療を行います。フルオロウラシルとシスプラチンと免疫チェックポイント阻害剤を用いた場合には、2次治療はパクリタキセルが推奨されます。ニボルマブとイピリムマブが用いられた場合には、フルオロウラシルとプラチナ系薬剤(シスプラチンあるいは、オキサリプラチン、ネダプラチン)を用いることが多いです。2次治療以降は、それまでに使われてこなかった種類の薬物を用いて治療しますが、選択肢がない場合には、治験などの実験的治療を行うケースもありますが、薬物療法を行わず、緩和治療を行いながら時間を過ごすことも選択肢の一つとなります。

食道がんに対して薬物療法の役割は多岐にわたります。適材適所に用いることで、手術療法や、放射線治療の効果を高めることもできます。副作用があっても、上手に付き合っていくことで、効果を最大化することができます。上手に付き合うためには、どのような副作用がいつ、どのくらいの確率で出現し、その対応はどうしたらよいか、ということを知っておくことが必要です。

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