食道癌に対するオキサリプラチンの使用について
日本食道学会
日本臨床腫瘍学会
日本癌治療学会
要約
- ・食道癌に対するオキサリプラチンは、FOLFOX療法あるいは、FOLFOX療法併用放射線療法として使用する。
- ・食道癌に対する標準治療として使用されるプラチナ製剤はシスプラチンであり、オキサリプラチンはシスプラチン不耐例に対するオプションである。
- ・食道癌に対するFOLFOX療法、FOLFOX療法併用放射線療法のエビデンスは乏しい。
1. 緒言
日本臨床腫瘍学会は、オキサリプラチンの食道癌に対する保険償還について社会保険診療報酬支払基金に要望していたが、2019年4月22日に食道癌に対するフルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン併用(FOLFOX)療法が審査上、認められることとなった。本邦における食道癌に対する化学療法の標準治療はシスプラチン+フルオロウラシル併用(CF)療法、また、化学放射線療法の場合にはCF療法と放射線治療の併用(CF-RT)であるが、今後はプラチナ併用化学療法および化学放射線療法として、オキサリプラチンを用いたFOLFOX療法、およびFOLFOX+放射線治療(FOLFOX-RT)が新たに選択肢に加わる。
欧州および米国のガイドライン(ESMOガイドライン、NCCNガイドライン)においてFOFLOX療法およびFOLFOX-RTは、エビデンスは乏しいものの、少なくともCF療法と同程度の治療効果を期待しうるという見込み、および利便性の観点から、治療選択肢として記載されている。
オキサリプラチンはシスプラチンと比較し、大量輸液が不要、外来治療可能であるなどの利点もあるが、食道癌における使用においては以下の点に留意する必要がある。
- a.上述のガイドラインに引用されている、PRODIGE5/ACCORD17試験におけるFOLFOX-RT療法は、現在結腸・直腸癌に対する全身化学療法として汎用されている、modified FOLFOX6療法と5-FU持続静注の用量が異なる。
- b.PRODIGE5/ACCORD17試験において、FOLFOX-RTの、CF-RTに対する優越性および非劣性は、証明されていない。
- c.遠隔転移を有する、もしくは再発した食道癌、特に扁平上皮癌に対するFOLFOX療法の有効性・安全性についてのデータは乏しい。
- d.食道癌に対するFOLFOX療法の国内での使用経験は少なく、報告されている使用例は特例的なものに限られる。
以上から、FOLFOX療法の保険償還を受けて、症例選択や安全性に配慮し適正な使用を推進することは日本食道学会の責務であると考え、本ステートメントを作成した。なお、本ステートメントは、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会の協力を得て、それぞれの学会のホームページでも公開する。
2. 目的
本ステートメントは、食道癌に対するオキサリプラチン(A法: 85 mg/m2、2週毎)が保険償還されることをうけて、適正使用の推進を目的とする。
3. オキサリプラチンの用法用量
オキサリプラチン85 mg/m2を、フルオロウラシル、レボホリナートと併用し2週毎に投与(A法)する。
4. レジメンと治療変更例
A) 食道癌に対する化学放射線療法を行う場合に参考となるFOLFOX療法
化学放射線療法として、オキサリプラチン85 mg/m2を、レボホリナート200 mg/m2、フルオロウラシル400 mg/m2急速静注および1600 mg/m2の46時間持続静注と併用する。2週間毎に3回投与する。放射線治療終了後、さらに3回投与する。放射線治療は総線量50Gyを25回に分割する*(下図)。
*PRODIGE5/ACCORD17試験における照射量は50Gy(2Gy x 25回)であり、現時点でこれ以外の臨床試験データはない(ただし、本試験で用いられた化学療法は、大腸癌で頻用されるmodified FOLFOX6療法と5-FU持続静注の用量が異なることに注意)。
B) 緩和的治療対象となる遠隔転移を有するもしくは再発食道癌に対するFOLFOX療法
オキサリプラチン85 mg/m2を、レボホリナート200 mg/m2、フルオロウラシル400 mg/m2急速静注および2400 mg/m2の46時間持続静注と併用し、2週間毎に投与する。
C) 減量規準
下記有害事象を認めた際には、各薬剤の約20%減量を検討する。FOLFOX-RTでは次回投与時、フルオロウラシル急速静注を中止する。
- ・好中球数減少Grade 3以上
- ・血小板数減少Grade 3以上
- ・その他の有害事象Grade 3(末梢性感覚ニューロパチーを除く)以上
また以下を認めた場合、オキサリプラチンの20%減量を検討する。
- ・末梢性感覚ニューロパチーGrade3、またはGrade2が次サイクル開始時まで持続
5. 参考資料
A) PRODIGE5/ACCORD17試験
根治的化学放射線療法の対象となるStage I~IVAの食道腺癌および扁平上皮癌患者を対象として、標準治療であるCF-RTに対するFOLFOX-RTの無増悪生存期間における優越性を検証するランダム化第3相比較試験である。FOLFOX-RTは上述(4. レジメンと減量規準)の通りであった。一方、CF-RTはシスプラチン(75 mg/m2、day1)およびフルオロウラシル(1000 mg、day 1~4)を4週毎に、放射線治療(50 Gy、25回分割)と併用で2サイクル、放射線治療終了後に2サイクルの計4サイクルのレジメンが計画された。
FOLFOX-RT群に134名、CF-RT群に133名が割付けられ、それぞれ90名、96名がプロトコール治療を完遂した。無増悪生存期間の中央値は、9.7か月対9.4か月(ハザード比 0・93, 95%信頼区間 0・70~1・24; p=0・64)と、FOLFOX-RTの優越性は示されなかったものの、全生存期間中央値はそれぞれ20.2か月対17.5か月(p=0.70)と、無増悪生存期間とともに同程度であった。Grade 3以上の好中球数減少、嚥下障害の発生割合については両群間で差を認めなかったが、grade 2以下の有害事象は、末梢神経障害、トランスアミナーゼ増加はFOLFOX-RT群で多く、クレアチニン増加、脱毛はCF-RT群に多く認めた。
以上の通り、優越性が示されなかった試験であるものの、著者らはFOLFOX-RTがCF-RTの代替療法となり得ることを示唆する結果であると結論した。
本試験の適格規準
- ・前治療歴のない、stage I~IVA食道腺癌および扁平上皮癌
- ・PS 0~2
- ・好中球数 ≥ 1500/mm3
- ・血小板数 ≥ 10万/mm3
- ・クレアチニン < 1.5 mg/dL
委員会からのコメント:
- ・本試験は、統計学的にはFOLFOX-RT療法がCF-RT療法に対して優越性を証明できず、非劣性も示すことはできていない。よって、食道癌に対する標準治療として使用されるプラチナ製剤はシスプラチンであり、オキサリプラチンはシスプラチン不耐例に対するオプションである。
B) E-DIS試験
遠隔転移を有するまたは再発食道扁平上皮癌患者に対し、担当医選択によりシスプラチンもしくはオキサリプラチンとフルオロウラシルの併用レジメンを行い、6週後に進行を認めなかった患者を対象として、現行レジメンを継続(CT-CONT)群もしくは治療休止(CT-DISC)群に割付けるランダム化第2相試験である。76%の患者でFOLFOX(オキサリプラチン85 mg/m2、レボホリナート200 mg/m2、フルオロウラシル400 mg/m2急速静注および2400 mg/m2の46時間持続静注)が選択された。
CT-CONT群に34名、CT-DISC群に33名が登録された。主要評価項目である9か月生存割合はそれぞれ、50%、48%であった。投与開始後6週時点の奏効割合は、CT-CONT群で35%、CT-DISC群で30%であった。無増悪生存期間中央値はそれぞれ4か月、1.4か月であったが、CT-DISC群では73%の患者が進行後に化学療法を再開し、全生存期間中央値はそれぞれ8.5か月、8.8か月と、同程度であった。CT-CONT群においてgrade 3の好中球数減少を19%に、血小板数減少を3%に認めたものの、予期しうる範囲であり、治療関連死亡も認めなかった。QOLスコアはCT-CONT群で良好な傾向があった。
この試験では両群間の比較試験としての統計学的設計はなされなかった。しかし全生存期間において両群間に有意差を認めなかったことから、治療方針の決定に資するデータであると結論された。
本試験の適格規準
- ・前治療歴のない、stage IVB食道扁平上皮癌
- ・PS 0~2
- ・化学療法を行う際に適切な臓器機能(以下参考)
- ・好中球数 ≥ 1500/mm3
- ・血小板数 ≥ 10万/mm3
- ・クレアチニン < 1.5 mg/dL
委員会からのコメント:
- ・標準治療であるCF療法との直接比較ではないが、FOLFOX療法が76%に実施された集団において、過去のCF療法に関する報告と同程度の治療成績が示された。
- ・実臨床では6週後に計画的に化学療法を休止することは推奨されない。
6. 参考文献
- ・Oesophageal cancer: ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up(ESMOガイドライン)
- ・Esophageal and Esophagogastric Junction Cancers version 1.2018(NCCNガイドライン)
- ・Conroy T, Galais MP, Raoul JL, et al. Definitive chemoradiotherapy with FOLFOX versus fluorouracil and cisplatin in patients with oesophageal cancer (PRODIGE5/ACCORD17): final results of a randomised, phase 2/3 trial. Lancet Oncol 2014
- ・Adenis A, Bennouna J, Etienne PL, et al. Continuation versus discontinuation of first-line chemotherapy in patients with metastatic squamous cell oesophageal cancer: A randomised phase II trial (E-DIS). Eur J Cancer 2019